
イタリア・オルコ渓谷での生活。懐かしい人たちとの再会と、クライミングの日々|筆とまなざし#477
成瀬洋平
- 2026年10月09日
今年もロカーナでの生活が始まった。右腕の痛みにより、新しいエリアやルートに出合う日々
カダレゼで10日間ほどすごしたあと、オルコ渓谷へ向かった。標高が低いカダレゼはまだクライミングのベストシーズンではなく、滑り手のぼくには少し暖かすぎた。たくさん宿題ができてしまったことは心残りだが、次回の種蒔きと思うことにしよう。
オルコ渓谷の小さな村、ロカーナの常宿に着いたのは昼を少しすぎたころだった。2階にある素朴な部屋は、昨年と変わることなく静かに温かく迎えてくれた。テラスのドアを開けると、小さな教会の屋根に幼いキリストを抱いたマリアの像が、これもいつもと変わらず出迎えてくれる。テーブルに置かれた、宿のお母さんお手製のジャムやイチヂクのコンポートもいつもと同じで、これがオルコに来るたのしみのひとつにもなっている。まずはお土産を持ってお母さんにご挨拶。今年もここでの生活が始まった。
ところで、クライミングのほうは少し残念なことになっている。2ヶ月前に痛めた右腕が痛み出し、ひどいときは水を入れたボトルも持ち上げられないほどになってしまったのだ。チャレンジしたかったルートを触れるような状態ではない。代わりに、これまで後回しにしていた易しめのルートを登ったり新しいエリアに行ったりしてすごしている。クラックで有名なオルコだがボルトルートも多く、マルチピッチもほとんど登っていない。1本のルートに取り組み始めるとそれしか考えられなくなってしまう性分。違う目線で見るとまだまだ登ってみたいルートで溢れていることに気付く。
オルコの気さくな人々との再会
オルコに来る大きなたのしみは気さくな人々との再会である。とくに、いちばんお世話になっているグラチアーノは、昨年は忙しそうでほとんど会うことができなかったのだが、今年はときどきバールに行くと高い確率で、というかほぼ確実に会うことができる。たぶん、毎日飲みに行っているのだろう。昨年は忙しそうなようすに心配したが、今年は息子から「ご飯ができたから早く帰ってこい」と電話があるほどで、そちらが少々心配になる。その息子が20歳になるエマニエーレで、昨年からクライミングにハマっている。一年前の別れ際に次回はいっしょにクライミングに行く約束をしていて、その約束を果たすのが今年のたのしみでもあった。クラックをやってみたいけれどカムをセットしたことがないというので、先日は練習を兼ねて易しめのクラックを登りに出かけた。明日は彼が好きなエリアにいっしょに行く約束をしている。
ロカーナ出身でいまはトリノに暮らすクライマー、ジャンマリオとパートナーのロサンジェラとは、昨年からいっしょにボルダー開拓をしていて、先週末はその続きに出かけた。夜はロサンジェラ特製のピザをご馳走になった。しかも11月にふたりで日本へ旅行に来るということで、ぼくの地元でハイキングに行く計画を立てている。
宿の斜向かいのトラットリア・アルピに行くと顔馴染みの村人が次々とやってくる。グラチアーノ、ピエール・ジョルジョ、クラウディオ・コンティとそのお兄さん、厳つい体つきの大工さんや水道屋のおじさん。女主人のイナが適当に酔っ払いたちをあしらうのも変わらない。
「チャオ! なに飲んでるんだ? 次はなににする?」
そうやっていつもワインをおごってもらってしまうのだが、これが危険。たのしい時間飲まれて調子に乗って飲んでいると、だいたい翌日は強制レストとなるのである。年に一度、二日酔いでグダグダになるのもロカーナでの恒例行事。そんなふうにすごしているとあっという間に時間がすぎていくのである。いつの間にか残りの日数は1週間をきっている。ここでも宿題ルートが増えそうだ。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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