
「アジアで勝たねば世界はない」早大・垣田、池田、ロード3種目で世界に挑む日体大・水谷らが見据える頂点
Bicycle Club編集部
- 2026年09月11日
INDEX
8月下旬の「千葉JPFドーム」で行われたトラック競技、そして9月初頭、群馬サイクルスポーツセンターのタフなコースで開催されたロードレース。大学の誇りと意地が激突した「文部科学大臣杯 第81回 全日本大学対抗選手権自転車競技大会(インカレ)」は、今年も数々の名勝負を生み出して幕を閉じた。
学生日本一の座を争うこの大会は、各大学の集大成であると同時に、日本代表として世界へ羽ばたく若き才能たちの登竜門でもある。
トラックで圧巻のパフォーマンスを披露し、ロードでも他を圧倒して女子総合完全優勝(高木秀彰賞)を果たした早稲田大学。表彰台を争った日本体育大学や鹿屋体育大学の精鋭たち。激闘を終えたばかりのトップ選手たちの中に、息つく間もなく次なるターゲットを見据える者たちがいた。
間近に迫る自国開催のアジア競技大会、世界の頂点を争う世界選手権、そして2028年のロサンゼルス五輪――。
急成長を遂げるライバル・中国勢への強い危機感、世界最高峰の舞台で生き残るための決意、チームを支える誇り、そして「今からやらなければ五輪には間に合わない」という焦燥感。群馬CSCの現場で語られた選手たちの生の言葉から、日本自転車界の次代を担う学生アスリートたちの「現在地」と「世界への航路」を追った。
池田瑞紀(早稲田大学)

「アジアで勝てなければ、世界では戦えない」雪辱のインカレ女王が語る危機感と世界の壁
女子ロードレースで、2位に8秒差をつけて見事な独走勝利を飾った池田瑞紀(早稲田大学4年)。昨年の大会ではあと一歩届かず悔しい2位に終わっていた池田が、大学最後のインカレで2024年以来2度目のロード女王のタイトルを掴み取った。トラック競技でもマディソン優勝、チームスプリント優勝、1kmタイムトライアル2位と大車輪の活躍を見せ、早稲田大学の女子総合優勝に大きく貢献した。
しかし、フィニッシュラインを越えた池田の表情に、国内学生タイトルの獲得に満足する様子は微塵もなかった。
「アジア大会はすごく大事な大会です。世界選手権の前にある大会でもありますし、中国が力を上げてきていることも、アジア選手権を走って強く感じています」
近年、アジアの女子中長距離種目における中国勢の台頭は凄まじい。豊富な選手層と徹底した強化プログラムを背景に、トラックのみならずロードでも組織的な走りと個の爆発力を兼ね備え、日本にとって最大のライバルとして立ち塞がっている。国際舞台の最前線で刃を交えてきた池田だからこそ、その脅威を肌で痛感している。
「中国は人数も揃っていますし、レースの組み立て方も上手い。そういう相手と戦って結果を出していかないといけないと思っています」


インカレ女王となった池田の視線は、もはや国内ではなく、世界の頂上決戦へと向けられている。その上で池田は、世界で戦うための絶対条件として「まずアジアで勝つこと」の重要性を強く訴えた。
「まずアジアで勝たないと、ヨーロッパの強豪国とは戦えないと思っています。アジア大会でしっかり結果を残して、その先の世界選手権につなげたいです」
学生界の頂点に立った4年生の挑戦は、ここで終わらない。国内最高峰の学生タイトルを手にした今、彼女の瞳はアジアの頂点へ、そして世界最高峰の舞台へとまっすぐに据えられている。
垣田真穂(早稲田大学)

自国開催のアジア競技大会で結果を ロス五輪サイクルへ向けた決意
トラック競技の1kmタイムトライアルで1分11秒265の学連新・大会新記録を樹立して優勝し、4km個人追い抜きでも4分47秒433の大会新で優勝、チームスプリントも制して3冠を達成した垣田真穂(早稲田大学4年)。ロードレースでも3位表彰台に登り、その圧倒的な走力を見せつけた。
すでにエリートの日本代表として、さらには海外UCIロードチームの舞台でも実績を積み重ねている垣田にとって、次なる照準であるアジア競技大会は「オリンピックに次ぐ大舞台」だ。
「アジア大会は4年に一度の、オリンピックの一個下の大きな大会になると思うので。しっかりその出場種目で優勝を取って、あと日本で開催されるので。もっと自転車競技を盛り上げるためにも、しっかり自分たちが精一杯頑張って、いい結果で終われるようにしたいなって思います」
自国開催という舞台は、大きな注目とプレッシャーが伴うと同時に、日本の自転車競技界を自らの走りで牽引するという強い使命感をもたらしている。

そして垣田もまた、池田と同様に中国勢の急激なレベルアップに強い警戒感を露わにする。
「中国が力を上げてきているので、どこまで走ってくるのかっていうのもすごく楽しみでもありますし、しっかり危機感を持ってやっていかないと、次の世界選手権からオリンピックポイント獲得っていう本当に大事な大会になると思うんで」
アジア大会を終えれば、休む間もなく世界選手権が控える。そこからは早くも2028年ロサンゼルス五輪へ向けた出場枠獲得争い(オリンピックポイント獲得)の過酷なサイクルが幕を開ける。パリ五輪を経験したからこそわかる世界のシビアさ。垣田は冷静な危機感とともに、その険しい頂へ再び歩みを進めている。
岡本美咲(早稲田大学)

先輩たちの背中を追い「チームの力になることが第一歩」
トラックの女子オムニアムで146点を獲得して優勝を飾り、池田と組んだマディソン、垣田・池田と組んだチームスプリントでも優勝。4km個人追い抜きでも2位に入り、ロードレースでも7位で完走するなど、早稲田大学の総合優勝に大きく貢献した岡本美咲(早稲田大学3年)。めざましい進化を遂げる若き実力者だが、日本代表チームにおける自らの立ち位置については至って謙虚だ。
「自分は先輩方の、とりあえず足を引っ張らないというか、力になれるっていうのが多分一番今回の目標になるんで」
世界基準の強さを誇る先輩たちの背中を追いながら、代表チームの中で果たすべき自らの役割を冷静に見据えている。しかし、内に秘めた闘志は決して小さくない。自国開催という大舞台への思いをこう語る。
「自国開催っていうのはすごい気合も入りますし、応援もいっぱいあると思うんで、まず先輩についていけるようにしっかり残りの期間で仕上げていきたいなと思ってます」

派手な言葉を並べるのではなく、まずは代表チームの確かな戦力になること。その地道で実直な姿勢こそが、大舞台でチームを勝利へ導く推進力となる。
水谷彩奈(日本体育大学)

世界選手権へ 3種目で世界に挑む「今やってなきゃ五輪に間に合わない」
昨年のインカレロード女王であり、今大会でもトラックのオムニアムで2位(138点)、マディソン2位、1kmタイムトライアル3位と日本体育大学のエースとして強烈な存在感を放った水谷彩奈(日本体育大学3年)。ロードレースでも積極果敢に集団を牽引した水谷だが、インカレを終えた彼女が見据えているのは、世界最高峰の戦場「世界選手権」だ。
今大会後に行われたインタビューで、水谷は自身が世界選手権において、
・チームタイムトライアル・男女混合ミックスリレー
・個人タイムトライアル
・個人ロードレース
という過密な3種目にフルエントリー予定であることを明かした。
独走力、チームワーク、そしてロードでの総合力が極限まで試される3種目への挑戦。過酷なスケジュールにも、水谷は気負いすぎることなく自然体で挑む姿勢を見せる。
「ミックスリレーと個人TTとロードレースに出るので、みんなで協力して、TTは速く走れるように頑張ります」

世界の大舞台を前に、特定のライバルを意識しているかを問われると、「ライバルとかは、ちょっと全然わかんないです」と率直に答えた。周囲の思惑や対戦相手に惑わされることなく、まずは自らのフィジカルと走りのクオリティを極限まで高めることに集中している。
そして水谷の視線は、その先にある2028年ロサンゼルス五輪をも明確に捉えている。
「自分がメンバーに選ばれるかはまだ全然わからないです」
自らの現在地を客観的に見つめながらも、水谷は強い覚悟を滲ませて前を向いた。
「でも今の時点でやってなきゃ絶対に間に合わないと思うので、一つ一つのレースや毎日の練習でできることをやって、代表に入れればいいなと思います」

オリンピックという夢を遠い未来の目標として捉えるのではなく、「今やらなければ間に合わない」という強い危機感とともに日々の練習とレースを積み重ねていく。インカレを戦い抜いた水谷もまた、世界選手権、そしてロス五輪へ向けて確かな一歩を踏み出している。
石川七海(鹿屋体育大学)

初のロード世界選手権へ シクロクロスで培った経験を世界のプロトンで
大学1年生ながらインカレ女子ロードレースで堂々の5位に入り、トラックでもマディソン3位、チームスプリント5位、4km個人追い抜き6位とマルチな実力を発揮して鹿屋体育大学の女子総合3位に大きく貢献した女子ジュニアロード全日本チャンピオンの石川七海(鹿屋体育大学1年)。
今シーズン大きな飛躍を遂げた石川は、自身初となるジュニア・ロード世界選手権への切符を掴み取った。現在はシクロクロス日本代表としても冬場のオフロードで世界を相手に戦う彼女だが、今後しばらくはロードとトラック競技に重点を置いて活動していく予定だという。
「ロードで世界選手権に出るの初めてなんで、まだちょっと全然わからないんですけど」
初の大舞台を前に率直な心境を明かす石川。しかし、過酷な世界のプロトンに挑む目標は極めて明快だ。
「絶対集団からは切れないように、最後スプリントに絡めるように頑張りたいなと思ってます」


高校時代に経験した海外遠征など、早い段階から世界のレース文化に触れてきたことが石川の視野を広げ、タフな精神力を培った。
「日本とも全然価値観も何もかも違いすぎて、すごい世界が広がった感じはありましたね」
泥とキャンバーを攻略するシクロクロス、精密なスピードとパワーが求められるトラック、そして駆け引きと持久力が試されるロード。多様な種目を越境しながら経験を重ねてきた石川が、世界のトッププロトンでどんな走りを見せるのか期待が高まる。
梅澤幹太(鹿屋体育大学)

ロサンゼルス五輪への第一歩 中国を打破し世界へ名乗りを上げる
女子だけでなく、男子の学生トップ選手たちもまた、世界への階段を登り始めている。トラックの男子オムニアムでテンポレース1位、エリミネーション1位と圧倒的な走力を見せ、138点を獲得して総合2位に輝いた梅澤幹太(鹿屋体育大学4年)も、アジア競技大会と世界選手権を目前に控えるひとりだ。
男子中長距離の若きホープである梅澤が、まず照準を合わせるのはアジアの絶対強国・中国の撃破である。
「中国がやっぱ一番強いところになってくると思うんで、中国に勝つというところを目標にして頑張っていきたい」
トラック中長距離の複合種目であるオムニアムでアジアを制することは、世界への扉を開くための絶対条件となる。
「オムニアムでもしっかり優勝を狙って走れるように頑張りたいなと思います」

そして梅澤の視線の先にも、2028年のロサンゼルス五輪がはっきりと見えている。
「今年の世界選手権からロスオリンピックのポイント獲得が始まると思うので、最初の世界選手権もしっかり頑張りたいです」
学生レースの王者争いは、すでに4年後のオリンピックへ向けた助走区間に他ならない。梅澤はアジアでの頂点を経て、五輪出場枠の争奪戦となる世界選手権へと立ち向かう。
学生レースの熱狂を背に、アジアの頂、そして世界最高峰の戦場へ
年に一度、大学の誇りを懸けて激突したインカレは幕を閉じた。仲間とともに歓喜を分かち合った者、悔しさに唇を噛んだ者、それぞれが全力を尽くした夏だった。
しかし選手たちにとって、インカレのフィニッシュラインはゴールではなく、世界へと続く滑走路の始まりに過ぎない。
アジア競技大会、世界選手権、そしてロサンゼルス五輪――。
「アジアで勝てなければ世界はない」と危機感を露わにする者。
「今やってなきゃ五輪に間に合わない」と日々の鍛錬に集中する者。
それぞれの抱く覚悟やアプローチは違えども、彼ら・彼女らの見据える頂点は世界の最高峰で一致している。
群馬CSCの過酷なコースで見せた熱い走りの続きは、今度はアジア、そして世界の檜舞台で描かれることになる。日本の次代を担う学生アスリートたちの挑戦に、熱い注目を注ぎ続けたい。
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 文と写真:井上和隆
SHARE
PROFILE
Bicycle Club編集部
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。



















