
国内トップライダーの最新鋭XC用マウンテンバイクと哲学が宿る特注ハードテイル
Bicycle Club編集部
- 2026年07月10日
7月に福島県田村市・桧山高原特設コースで開催されたUCI C3国際大会「Coupe du Japon 福島桧山国際」。全日本マウンテンバイク選手権を目前に控えたトップライダーたちが集結したこのレースのパドックには、最新のトレンドやライダーの個性を色濃く反映した注目マシンが並んでいた。
世界王者と同じフレームを駆る副島達海のGIANT Anthem Advanced SL、国内で実戦投入されているのがわずか2台という新型SCOTT Spark RC、そしてフルサスペンション全盛の時代にあえてハードテイルを選ぶ石田唯のSarto Hardtail。それぞれが秘める「機材への哲学」を紐解いていく。
副島達海 × GIANT Anthem Advanced SL

世界王者と同じフレームで全日本へ挑む
エリートクラス優勝候補の一人、副島達海(TRKWorks)。その副島が駆るのはGIANT Anthem Advanced SLだ。現世界王者アラン・ハザリー、そしてワールドカップ開幕戦を制したダリオ・リロ(ともにGIANT Factory Off-Road Team)と同じフレームを使用しており、カラーリングもリロのレースバイクと同仕様。鮮やかなブルーは従来のXCレーサーにはあまり見られない色使いだ。
「最初フレームだけ届いた時は、おもちゃみたいな色だなと思いました(笑)。でも組んだらすごくしっくりきたし、今ではこのカラーがすごく好きですね」と副島は語る。

軽さを維持したままストロークアップ、走破性を高めたサスペンション
新型Anthem最大の特徴はサスペンションシステムの進化だ。従来モデルのフロント110mm / リア100mmから、フロント120mm / リア120mmへとストロークアップ。近年のワールドカップXCOで急激に上昇している下りの難易度に対応するため、より高い走破性を持つプラットフォームへ進化させた。特筆すべきは、ストロークを増やしながらも前モデルより89g軽量化を果たして、XCバイクとしての軽快さを失っていない点だ。

剛性向上による加速性能とコントロール性の高さも新型の武器。登りではペダリング入力に対する反応が鋭く、下りでは狙ったラインを正確にトレースできる。荒れた路面でもバイクが暴れにくいため、余計な体力を使わずに済む。副島のような登坂力を武器とするライダーにとって、レース後半でもパフォーマンスを維持しやすい大きなアドバンテージとなる。
ジオメトリーは大きく変えず、電動XTRとXTのハイブリッド仕様
ストロークが伸びたことでポジションの変化が気になるところだが、意外にもリーチは従来モデルとほぼ同等。スタックは約10〜14mm高くなっているが、ステム位置で十分対応できる範囲に収められており、ライダーの慣れたポジションを維持したまま走破性だけを引き上げている。


コンポーネントは電動のシマノXTRをメインに構成。「やっぱ変わりますね。電動すごいなって思います」と高く評価する一方で、ブレーキにはXTを採用。「予算ですね(笑)」と率直に語る通り、必要な部分には投資し、使える部分は使い続けるというリアルな機材選択が垣間見える。ペダルはXTRを選択し、「XTだとカチャンって入る感じなんですけど、XTRはシュッて包んでくれる感じ」と、フィーリングへのこだわりを語った。
一番大切なのは無事に“カエル”こと

最先端の機材について語ってくれた副島だが、「お気に入りのポイントは?」と尋ねると、意外にもサドル下に取り付けられた小さなカエルのチャームを指差した。「怪我なく帰ってくるのが一番大事なんで。無事帰るという意味を込めて」。全日本タイトルを見据える彼の口から出たのは、勝利よりも「無事に帰る」こと。100円ショップで購入したというその小さなお守りが、副島の激しいレースを見守っている。
平林安里&松本一成 × SCOTT Spark RC

国内実戦車はわずか2台。今冬発売予定の最新XCレーサー
平林安里(TEAM SCOTT TERRA SYSTEM)と松本一成(ハイファイブレーシング/ホンダカーズ群馬)が投入したのが、第5世代となる新型SCOTT Spark RCだ。「Light Weight」「Ride Dynamics」「Seamless Performance」を開発テーマに掲げたこのモデルは、取材時点で国内の実戦車はこの2台のみ(展示車を含めても3台)。一般販売は今冬以降を予定しているという超最新鋭機である。

「7月に入ってから来て、降ろしてほぼ3日ぐらいしか乗れていないバイク」と平林が語る通り、福島桧山国際が実質的なシェイクダウンレースとなった。
MotoGPから着想を得た新サスペンション機構


今回のモデルチェンジで最も注目すべきはサスペンションシステムだ。従来はシートチューブ内にショックを縦に収める構造だったが、新型ではショックを水平配置し、新設計のリンク機構を採用。重心位置の最適化やフレームのしなり特性が見直されている。「オートバイやMotoGPのバイクからインスピレーションを得たと聞いています。サスペンションの動きを最大限に引き出すコンセプトで作られていますね」と平林。
さらに進化した軽量化と下り性能
フレーム単体(Mサイズ・ショックレス状態)で1,427gと、従来世代から約200gの軽量化を実現。ホイールも一新され、実車に装着されたSyncros製のカーボンスポークホイールは1500g台から1100g台へと大幅なシェイプアップを果たしている。登り返しの多いXCコースにおいて、この回転体の軽さは強烈な武器となる。


ジオメトリー面ではリーチが約10mm延長された。「下りの安定性と登りのパワー伝達能力がすごく上がっています」と平林。同じく新型に乗る松本も「下りで路面に吸い付くような安定感があり、バイクが暴れないのでコントロールしやすい。まるでダウンヒルバイクのような感覚です」と絶賛。実戦投入してわずか数日とは思えないほどの高い完成度を誇る。



コンポーネントはSRAM XX SL Eagle AXS Transmissionと、前後サスを自動制御するRockShox Flight Attendantを搭載。「上位グレードの完成車のパッケージそのまま」と語る通り、国内に存在するわずか2台の最新XCレーサーが全日本選手権でどんな走りを見せるのか、目が離せない。
石田唯 × Sarto Hardtail

現代XCにおける“最速のハードテイル”を目指して
フルサスペンションバイクが主流となっている現代のXCシーン。テクニカル化するコースに対応するため多くのライダーがリアサスを備えたマシンを選ぶ中、石田唯(TRKWorks)が全日本選手権へ向けて選んだのはハードテイルだった。しかもそれは既製品ではなく、TRKWorksの小林輝紀監督がプロデュースし、イタリアのSarto(サルト)が製作したスペシャルフレームだ。

「世界に2台だけ作ってあるんです。1台がレース用で、もう1台がスペアです」と小林監督。これは単なる「石田専用車」ではなく、小林監督が思い描いた「現代XCレースにおける最速のハードテイル」という哲学を具現化したもの。結果として、それが石田のライディングスタイルと高いレベルで一致した。

「ノーマルQファクターのまま36Tチェーンリングがチェーンステーに干渉しない形状を依頼したんですが、そこだけは思い通りにならなかったですね。でも、それ以外はいいバイクです」と語る小林監督。近年のショートチェーンステーやワイドタイヤ対応という複雑な条件の中で、高速域の駆動効率まで考え抜いた結果のオーダーだった。ロードレースなどと異なり、MTBはレースそのものが「機材開発の実験場」として機能している側面があり、このバイクもその文化から生まれた結晶だ。
「あえて紐」 軽さと反応性を極限まで追求
最近はフルサスペンションバイクに乗る機会も多かった石田だが、全日本の舞台にはこのSartoを選んだ。「全日本のコースが結構上りのきついコースなので、軽い方がいいかなと思って。今回はそんなに難しいコースではなかったので、すごく強みになったかなと思います」。


興味深いのは、電動変速全盛の時代にコンポーネントが機械式XTRであること。「これは紐です(笑)」と笑う石田だが、その理由は「軽いのが良かったです」と至ってシンプル。ハードテイルを選んだ理由も軽さ、機械式を選んだ理由も軽さ。トレンドに流されるのではなく、自身にとって何が速いのか、その判断基準に迷いはない。
“Give me a black chocolate” に込められた想い


フレームのダウンチューブには「Give me a black chocolate」というメッセージが描かれている。小林監督は「このバイク全体がブラックチョコレートっぽいでしょ。唯にもそういうライダーになってほしいんです。甘いだけじゃない、苦さも深みもあり、強い個性を持つ。そんなライダーになってほしい」と込めた願いを語る。「じゃあ、この子はブラックチョコレートってことですね」と石田も笑って応えた。
流行を追うのではなく、独自の思想で速さを追求した結果生まれたSarto Hardtail。小林監督の哲学と石田唯の走りが交差するこの一台は、フルサス全盛の現代において圧倒的な個性と輝きを放っている。
世界の最前線をそのまま持ち込んだGIANT Anthem、最先端技術を詰め込んだ国内未発売のSCOTT Spark RC、そして独自の思想で速さを追求した特注のSarto Hardtail。来る全日本選手権には、まったく異なる3つの「答え」が並ぶことになる。それぞれが信じる最高の機材で、どのような戦いが繰り広げられるのか期待が高まる。
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- CREDIT :
- 編集:相原晴一朗 文と写真:井上和隆
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