
津軽と下北、ふたつの半島を自転車とむつ湾フェリーで楽しむ「むついち」220Km
Bicycle Club編集部
- 2026年10月05日
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2026年4月、津軽半島の蟹田港と下北半島の脇野沢港を結ぶむつ湾フェリーに、新造船「かけはし」が就航した。老朽化した「かもしか」に代わる新たな船の誕生を記念して、現在開催されているのが「むついちロゲイニングライド」だ。自分のSNSに9つのチェックポイントの写真を投稿しながら、総距離約220kmのむつ湾をぐるりと一周する壮大なアドベンチャーサイクリングイベントである。今回、そのルートのハイライトを凝縮した1泊2日を体験。自転車区間とサポートカー区間を織り交ぜた「いいとこどり」の行程で、むつ湾の魅力を存分に体感した2日間をお届けする。

頼もしいガイドに聞く、ムツイチの魅力

ガイドを務めるのは、青森県を拠点に活動するJCGA(日本サイクリングガイド協会)公認プロサイクリングガイドの江利山元気さん。「サイクルガイド江利山」として、青森の風土を知り尽くしたガイディングに定評がある。風向きや路面状況、地元ならではの見どころを的確に教えてくれるベテランだ。
そしてもうひとりの同行者が、2026年4月に青森市の3代目「台湾国際交流員(CIR)」に就任した何予さん。台湾の台南市出身で、青森市のSNSでの情報発信や文化講座などを通じた広報活動で、青森と台湾の交流を深めている。自らも発信力をもつインフルエンサー的な存在として、青森の魅力を台湾へ届ける担い手だ。サイクリング文化が根付く台湾出身の彼女の目に、むつ湾の景色はどう映るのか。国際的な視点が加わることで、このファムトリップは一味違った旅になりそうだ。

集合場所の浅虫温泉駅へ。青森市街から自転車で1時間ほど、むつ湾に面した歴史ある温泉地で、無料で楽しめる飲泉、温泉たまご場・足湯もある。
透明な海の夏泊大島から、北前船の港・野辺地へ

江利山さんのオリエンテーションで注意事項とルート概要を確認し、いよいよペダルを踏み出す。
最初の目的地は、むつ湾に突き出した夏泊半島の先端にある夏泊大島だ。浅虫温泉からは1時間ちょっとの自転車区間。湾に沿った海岸線の道は、左手に穏やかなむつ湾、右手に緑の丘が続く気持ちのいいルートだ。

大島は、島へ渡る橋からの景色が圧巻。見下ろす海は驚くほど透明で、海底まではっきり見通せる。島の突端には灯台があり、晴れた日にはむつ湾を一望できる。春にはカタクリの群生が見事だというが、初秋のこの時期は潮風が涼しく、走り始めの体にちょうどいいウォーミングアップ区間だった。
夏泊半島の椿山からは小雨が降ってきたのでサポートカーに自転車を積み、かつて津軽藩と南部藩の境界だった藩境塚までショートカット。ここから再びサドルにまたがり、約20分で常夜燈公園に到着する。

野辺地は江戸時代、北前船の寄港地として栄えた港町。その歴史を今に伝える常夜燈が公園のシンボルだ。石造りの常夜燈は、かつて船乗りたちの道しるべだったもの。港町の風情が残る静かな公園は、ロゲイニングライドの公式チェックポイントでもある。

隣接する「のへじ活き活き常夜燈市場」で昼食タイム。リニューアルを経て「青森の食」の発信拠点でもあるこの市場には、むつ湾産の肉厚なホタテや新鮮な海産物が並ぶ。いま、むつ湾のホタテ養殖は海水温の上昇など気候変動の影響で大きな打撃を受けており、野辺地のホタテはいっそう貴重な存在になっている。それだけに、焼きたてを頬張ったときの絶品のうまさはひとしお。午前中の疲れも吹き飛ぶ、サイクリストの補給ポイントとしても覚えておきたい場所だ。
菜の花の里・横浜町を駆け抜け、防人の街・むつへ

昼食後、野辺地からサポートカーで横浜町の道の駅「菜の花プラザ」を目指す。青森県横浜町は日本有数の菜の花の産地。県内1位のじゃがいも収穫量、県内2位のホタテ水揚げ量も誇る、知る人ぞ知る食の宝庫だ。道の駅では特産の菜の花ドーナツが待っていた。菜花の風味がほんのり香る揚げたてのドーナツは、ここでしか味わえない一品。横浜なまこなどの珍しい地元食材も並び、物産館をのぞくだけでも楽しい。
菜の花プラザから菜の花ロードへ。横浜町を南北に貫くこの一本道は、5月なら両側が一面黄色い花畑に染まることで知られるが、9月は稲穂がきれいだ。

それでも抜けるような青空のもと、まっすぐ伸びるフラットな道を気持ちよく走れる。江利山さんいわく「春の菜の花シーズンに走ったら最高ですよ。一面の黄色の中を自転車で突っ切る爽快感は青森随一」とのこと。次は5月に来なければ、と心に誓う。

菜の花ロードを抜けた先で再びサポートカーに乗り換え、下北半島の中心地・むつ市へ。途中、ベリーオーチャード下北に立ち寄った。農薬・化学肥料不使用で栽培されたボイズンベリーやブラックベリー、レッドカラントなど、珍しいベリー類やトマトが楽しめる農園だ。欧米では抗酸化成分が豊富な「健康フルーツ」として知られるボイズンベリーを、下北の大地で味わえるのは貴重な体験。お土産にはこの地域ならではのソルトアートも人気で、自然の素材を活かしたアート作品は旅の思い出にぴったりだ。

ベリーオーチャード近くには斗南丘牧場の直売店「ミルク工房 ボン・サーブ」がある。「青森三大ソフトクリーム」のひとつに数えられるミルクソフトクリームは、卵や生クリームを一切使わず、自社牧場の新鮮な生乳を75%以上配合。濃厚なミルクの甘さと滑らかな口当たりでありながら、あと味はすっきりさっぱり。サイクリングの途中に立ち寄れば、最高の補給食になること間違いなし。目印はお店の前にいるヤギたちだ。

下北半島の中心地・むつ市の大湊安渡館へ

1日目の最後はむつ市の大湊安渡館へ。タワーの上から砂嘴のある風景をながめてから、自転車で海上自衛隊大湊基地の横を走り抜ける。

大湊は旧帝国海軍の要港として明治から栄えた歴史を持ち、現在も海上自衛隊の主要基地がある。護衛艦が並ぶ港をすぐ横目に自転車で走るという、なかなかできない体験だ。何予さんは「まるで映画のセットみたい」と目を丸くしていた。

走りながら目を引くのが、むつ湾に向かってくちばしのように細長く突き出した芦崎の砂嘴(さし)だ。

背後の釜臥山から流れ出た土砂が海流によって運ばれ堆積してできた地形で、根元の幅は100〜200mほどあるが、先端に向かって急速に細くなる。この天然の防波堤が大湊湾を囲い込むように守っているからこそ、明治以来ここに海軍基地が置かれた。下北ジオパーク「大湊・芦崎エリア」にも選ばれている地質学的な見どころでもある。

この日は大湊駅前にあるホテルサンマモルむつにチェックインした。
大湊駅には下北半島の最高峰・釜臥山の標高785m地点にある釜臥山展望台からの眺めが描かれていた。日本夜景100選にも選ばれたここからの眺めは、大湊の街灯りが芦崎の砂嘴に沿って広がり、まるでアゲハチョウが羽を広げたような姿に見えることから「光のアゲハチョウ」と称される。晴れた日には釜臥山展望台から八甲田連峰まで見渡せるという。自転車でも行けるというが、12Kmほどのヒルクライムが待っている。健脚自慢にはおすすめのヒルクライムコースだ。

ちなみに夕食でぜひ味わいたいのが、下北半島の郷土料理「いか寿司(いかずし)」だ。むつ市に伝わる一品で、「寿司」とはいってもシャリは入っていない。ボイルしたスルメイカの胴に、細切りにしたキャベツやニンジン、ショウガなどの野菜を詰め、甘酢で漬け込んだものだ。さっぱりとした酸味と甘みはサラダ感覚で、ご飯のおかずにも日本酒のお供にもよく合う。1日たっぷり走ったあとの体にうれしい、むつ湾ならではのご当地グルメである。
本州最北のワイナリーから鯛島を目指す

2日目は大湊駅をサポートカーで出発。サンマモルワイナリーのぶどう園へ向かう。本州最北端のワイナリーとして知られるこの場所は、フランス・ブルゴーニュ地方に似た冷涼な気候を活かし、良質なぶどうを栽培している。
天候も回復してきたのでぶどう園から販売所までの区間を自転車で巡ると、海風に吹かれたぶどう畑の向こうにむつ湾が広がるという贅沢な景色が楽しめる。販売所では約50種類の「下北ワイン」から試飲ができるが、ここでは我慢。お土産として楽しもう。

ワイナリーを後にし、車で脇野沢港へ。アップダウンのある海岸線は眺めもよく気持ちいいルートだ。ここでこの旅最大の見どころのひとつ、鯛島の姿が目に飛び込んでくる。

むつ湾に浮かぶこの小島は、その名の通り鯛のような形をしており、下北ジオパークの代表的なスポットだ。奥には岩木山も見える。
この鯛島は海底火山活動の痕跡である「枕状溶岩」でできている地質学的にも貴重な場所で、島全体が海底火山由来の岩石で構成されている。付近は北限のニホンザルの生息地としても知られ、初夏にはカマイルカが回遊してくることもあるという。脇野沢港から少し足を伸ばして牛ノ首岬を自転車で散策しながら、フェリーの出航時刻を待つ。

下北半島から津軽半島へ、フェリー「かけはし」で海を渡る

いよいよこの旅のハイライト——新造船「かけはし」に乗船する。脇野沢港から蟹田港まで約60分の船旅だ。自転車をそのまま積めるのも便利だ。

室内はラウンジになっていて、リラックスしながら風景が楽しめる。下北半島の海岸線がゆっくりと遠ざかり、やがて津軽半島の山並みが近づいてくる。「かけはし」という名前の通り、二つの半島を「架け橋」として繋ぐこの航路こそ、むつ湾一周を可能にするキーピースだ。

自転車ごと海を渡れるからこそ、むつ湾をぐるりと一周できる。船内ではロゲイニングライドのチェックポイントにもなっているので撮影も楽しめる。フェリーに乗ること自体がイベントの一部になっているのが楽しい。

津軽半島に上陸、縄文遺跡でフィニッシュ

蟹田港に到着すると、目の前にそびえるのが地上30mを超えるガラス張りの展望塔「トップマスト」。展望塔の最上階からはむつ湾を一望でき、1階には地元の特産品が並ぶ。

蟹田港から玉松海水浴場まで自転車を走らせる。JR津軽線沿道にはかつての森林鉄道の跡が残っている。軽便鉄道の痕跡と現在の鉄道が同じ視界に収まる光景は、時代の移り変わりを感じさせる。

途中、トマト栽培が盛んな蓬田村(よもぎたむら)で名物のトマトジェラートに舌鼓。「砂糖無用」と言われるほど甘い完熟トマトのジェラートは、火照った体への最高のご褒美だ。

天気もすっかり回復して、海辺を走っているといままで走ってきたむつ湾が見渡せる。

海辺の気持ちいいルートを離れ、最終目的地である世界遺産「三内丸山遺跡」へ。「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産であるこの遺跡は、約5,900年前から4,200年前にかけての大規模集落跡だ。
復元された大型掘立柱建物や竪穴建物が、悠久の時間を体感させてくれる。海と山と食を巡った2日間の旅の締めくくりに、青森の「時間の奥行き」を感じさせるこの場所はこの上なくふさわしかった。「青森市内に住んでいながらなかなかこれず、来たいな~って思っていたんです」と何予さん、縄文時代の風景を思い起こさせる広場、さらに土器や装飾品の展示に見とれていた。
「むついち」は青森サイクリングの新たな扉

三内丸山遺跡のあとは新青森駅で解散。
1泊2日で体験したむつ湾一周ルートは、自転車とサポートカー、そしてフェリーを組み合わせた柔軟な設計が魅力だ。全行程を自力走破する必要がないため、脚力に自信がないサイクリストでもむつ湾の多彩な風景と食を楽しめる。
江利山さんは「青森にはサイクリストがまだ知らないルートがたくさんあります。むついちはその入り口になるはず。地元の食や温泉、歴史スポットが次々に現れるから飽きません。地元青森には1日で走り切る健脚自慢もいますが、2泊3日かけてゆっくりまわるとちょうどよいですね」と語る。
いっぽう何予さんは「今回はじめてのサイクリングでしたが、サポートカーもあったので走り切ることができました。アップダウンが少ないから、私でも走れたんです。むつ湾の幸もたっぷり楽しめて、達成感のあるこのコースは、台湾のみなさんにもきっと人気になるはず。次回は自分の脚で、ゆっくり見て回りたいですね」と笑顔を見せた。
「むついち」は、ただむつ湾を一周するだけの旅ではない。むついちの特設ページには参加者が守るべき「誓約事項」が掲げられ、地域と参加者がともに責任をもって旅を楽しむ”レスポンシブルツーリズム”をテーマにしている。いま、むつ湾のホタテ養殖は気候変動の影響で大きな打撃を受けているが、サイクリストが「むついち」に参加し、地域で食事や買い物を楽しむことが、地元の人たちの元気につながっていく。地域に敬意を払い、応援し、応援される——。そんな旅のかたちに、きっと多くのサイクリストが共感してくれるはずだ。
「むついちロゲイニングライド」は11月5日まで開催中

新造船「かけはし」の就航を記念した「むついちロゲイニングライド」は、2026年5月22日から11月5日まで開催中。今年度は11月5日までだが、来年度も4月下旬から引き続き実施される予定だ。約220kmのコース上に設けられた9つのチェックポイントを巡り、自分のSNS(InstagramまたはFacebook)に各ポイントの写真を投稿して完走報告すると、完走証とオリジナル手拭いがもらえる。
フリー参加のほか、サイクリスト仲間と連れ立って、あるいは1泊2日から3泊4日までのガイド付き公式ツアーで走る楽しみ方もある。中級〜上級サイクリスト向けの設定だが、今回体験したようにサポートカー付きのツアーなら、幅広いレベルの人が楽しめるはずだ。グループに合わせたむついちオリジナルツアーの造成も可能なので、気になる人はブルーモリス 4-Ride(フォーライド)事業部へ問い合わせてみてほしい。むつ湾をぐるりと一周する旅——。「かけはし」が繋いだ二つの半島を、ペダルを踏んで体感してみてはいかがだろうか。
ブルーモリス 4-Ride(フォーライド)事業部
https://4ride-as.com/

むついちロゲイニングライド
開催期間:2026年5月22日(金)〜11月5日(木)※来年度も4月下旬より実施予定
コース:むつ湾沿岸 約220km / 9チェックポイント
参加方法:事前エントリー制(フリー参加・ツアー参加あり)
完走条件:自分のSNS(Instagram/Facebook)に9つのチェックポイントの写真を投稿
完走特典:完走証+むついちオリジナル手拭い
ツアー・問い合わせ:むついちアドベンチャートラベル推進協議会/オリジナルツアー造成はブルーモリスまで
https://www.mutsu-ichi.com/

むつ湾フェリー「かけはし」
航路:蟹田港(津軽半島)〜 脇野沢港(下北半島) 約60分
公式サイト:むつ湾フェリー
https://mutsuwan-ferry.jp/
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- CREDIT :
- 編集:バイシクルクラブ編集部
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