
トゥオルミ・メドウズで人気のマルチピッチルート「「Northwest Books」を登る|筆とまなざし#471
成瀬洋平
- 2026年08月23日
もっとも登りやすいマルチピッチルートのひとつを登る
トゥオルミ・メドウズにはたくさんのドームや岩峰があり、これらの大きな岩壁を登るマルチピッチクライミングのルートが多い。ここでのクライミングはシングルピッチよりマルチピッチのほうがメインだといっても過言ではないだろう。もちろん、岩壁の下にはたくさんのボルダーもあって、さまざまなフリークライミングを楽しむことができる。
そのなかでもっとも登りやすいルートのひとつが、「Lambert Dome」の「Northwest Books」だろう。3ピッチと短く、グレードは5.6。しかもアプローチはわずか10分である。手始めにこのルートを登ろうと思ったのは、もっとも手ごろだということのほかに、トゥオルミ・メドウズに入ってまず最初に目に入ったドームだったからである。
道沿いに縦列駐車し、ギアを整理していると遠くから声がした。顔を上げて辺りを見回す。こちらに歩いてくるのは、昨日岩場で出会ったクリスたちではないか。彼女たちはトゥオルミのキャンプ場に滞在しているそうだ。話を聞くと、クリスたちも同じ「Northwest Books」を登りにきたということだった。なんとも奇遇である。
いっしょにアプローチを登り、取り付きへ。日が当たると暑いが、名前のとおり北西面なので日陰になっていてありがたい。易しいルートというだけあって人気が高く、すでに2パーティーが取り付いていた。クライミングが始まるのは下部の易しい岩棚を少し登ったところで、そこまではロープなしでいく。木でセルフビレイを取って順番待ちをする。2時間はいいすぎかもしれないが、1時間以上待って、ようやくぼくの番がやってきた。
易しいルートでも、ここでは自分でアンカーを作るのが当たり前
クライミング自体は難しくはない。けれど、煩雑なソロシステムに気を使う。最初のスラブに1本だけハンガーボルトが打たれていたが、1ピッチ目の終了点にはボルトはなかった。クラックにカムをセットしてアンカーを作る。ロープをフィックスして懸垂し、下のアンカーとカムを回収してアセンディングする。
1ピッチ目の終了点付近は3パーティーがごった返していて団子状態だ。クリスたちのほかにいるのはヨセミテのガイドで、サウジアラビアから旅行にきた女の子がお客さんだった。近年、中東でもクライミングが盛んになってきているそうで、ほかの友人はヨセミテ観光をするなか、彼女だけクライミングがしたいとガイドをお願いしたということだった。
2ピッチ目はフェイスとクラックが交互に出てくるピッチで、60mロープがほぼほぼ出たところのテラスでピッチを切った。そこから易しいクラックをひと登りするとドームの肩に出た。
グレードはたしかに5.6だけれど、カムでプロテクションを取ることはもちろん、自分でアンカーを作らなければならず、日本でいえば決して初心者向きのルートではないと思った。いや、違う。ここでは初心者であろとカムでアンカーを作ることは当たり前なのかもしれない。それこそが、この場所でクライミングをするうえでの最低限のスキルなのだろう。
1ピッチ目に1本だけボルトが打たれていたが、それを除けばルート上に人間の痕跡はなく、自然のままの状態が保たれている。人間が登ろうが登るまいが、変わらぬ自然がそこにある。このことが今回の旅の大きなキーワードになるとは、そのときはまだ、さほど気に留めていなかった。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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