3種類のトレイルのうちのひとつ「cross country travel」とは
「自然の保護と利用」、それがジョン・ミューアの考え方だった。保護するだけなら立ち入りを禁止すれば良い。しかしそれでは自然のすばらしさがわからず、本当の意味でその自然を守ろうという気持ちにはなりにくい。利用とはその自然のなかに分け入り魅力を享受するということで、それによって初めて自分にとって大切なものだと認識し、守ろうという思いが育まれると考えた。それがアメリカの国立公園の理念へと繋がっていく。
トゥオルミのトポを見ていると、トレイルには3種類あることがわかった。ひとつは国立公園が管理する一般的なトレイル。ひとつはクライマーのアプローチトレイル。そしてもうひとつが「cross country travel」である。
「cross country travel」とはなんだろう? 疑問に思ったが、実際に山を歩くことで理解した。
今回の旅では、トゥオルミを出発し、マッドクリークを遡ってマッドレイクまで行き、そこから峠を越えてエコーレイクでキャンプする計画だった。マッドレイクからエコーレイクまでの道が「cross country travel」だったのだ。結論からいうと「道がない」ということだった。
ハイ・シエラでは、トレイルのない場所を歩いたりキャンプ地でない場所でキャンプをすることが禁じられていない。道なき道を、自分でルートを探しながら歩くのが「cross country travel」である。そこでのルールはただひとつ(だと思う)。それは、人間の痕跡を残さないこと。自然のままの状態を残すという条件のもとで、人は自由に山を旅することができるということなのだろう。
ジョン・ミューア、そしてソローへとたどり着くアメリカの自然保護思想
「cross country travel」を歩いて思ったことは、トゥオルミで登ったマルチピッチルートのことだった。たとえ易しいルートであってもボルトやアンカーなど人工物がない。つまり自然そのままの状態が保たれているということだ。故に、カムやナッツで支点をつくれるのならば、基本的にどこを登っても自由である。岩という自然に手を加えることなく、つまり人間の痕跡を残すことなく自然をそのままの状態に保つという条件のもとで、人は岩壁のなかを自由にクライミングすることができる。人が登ったという事実さえもわからない。ただそこには、それまでと変わらぬ悠久の自然があるだけなのである。
フリークライミングの「フリー」はハンズフリーのフリーであり、道具からの解放だと日本ではいわれている。それに加えて「岩に人間の痕跡を残さないという条件のもとで、クライマーは自由なのだ」という意味合いもあるのではないだろうか。
ジョン・ミューアの本を読みながらハイ・シエラをバックパッキングし、フリークライミングをするなかで、それらの根幹を成すものがすべて繋がっているのではないかと思った。そしてその大元をたどれば、ジョン・ミューアも多大な影響を受けたソローへとたどり着くのだと思う。
いま、アメリカではトランプ政権によってヨセミテやほかの公共の土地への新たな開発が目論まれている。アメリカの自然保護思想やそこから生まれた国立公園はアメリカの良心の大きなひとつだと思う。アメリカの人々が守り伝えてきた自然が、変わらず守り繋がれることを願う。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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