
ヒーリーとの一騎打ちを制したシモンズが初優勝 “キャプテン・アメリカ”が完全制覇|宇都宮ジャパンカップ
せいちゃん
- 2026年10月19日
INDEX
秋晴れの栃木県宇都宮市森林公園で開催された第33回宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース。序盤からハイスピードな乱戦となった144.2kmのサバイバルレースは、終盤に抜け出したクイン・シモンズ(リドル・トレック、アメリカ)とベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)による一騎打ちへ。息詰まるマッチスプリントを制した全米王者シモンズが、初出場にしてジャパンカップの頂点に立った。日本人最高位は序盤の逃げから粘り強く走った全日本王者・留目夕陽(愛三工業レーシングチーム)の21位となり、アジア最優秀選手賞を獲得した。
スタート前の温かな花道 岡本隼と石橋学を送り出すフェアウェルアーチ
前日の宇都宮市大通りを熱狂させたクリテリウムの余韻冷めやらぬ10月18日(日)、戦いの舞台は緑豊かな宇都宮市森林公園へと移った。アジア最高峰のUCIプロシリーズ「宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」本戦。早朝から詰めかけた7万8千人のファンがコース沿道をぎっしりと埋め尽くした。

午前10時の出走を前に、スタートライン前では胸を打つセレモニーが執り行われた。今シーズン限りで長い現役生活にピリオドを打つ岡本隼(愛三工業レーシングチーム)と石橋学(TEAM UKYO)の2名に対し、仲間たちによる「フェアウェルアーチ」が捧げられたのだ。

出走する全チームの選手たちが前輪を掲げて作り上げた自転車のアーチ。そのトンネルを、詰めかけた大観衆からの万雷の拍手とチームメイトたちの温かな声援に包まれながら、岡本と石橋が笑顔でくぐり抜けた。長年にわたり日本のロードレース界を牽引し、日の丸を背負って世界とも戦ってきた2人の功労者を称える感動的な光景に、沿道からは惜しみない「ありがとう!」の声が飛んだ。
1周目から17名の巨大な逃げ ハイスピードなサバイバルの幕開け

レースは1周10.3kmのサーキットを14周する144.2km。累積標高は2,500mを超え、名所・古賀志林道(標高差185m、最大勾配15%)を14回登坂する過酷なコースレイアウトだ。19チーム109名がスタートを切ると、1周目から猛烈なアタック合戦が勃発した。
古賀志林道の下り区間でファビアン・ワイス(チューダープロサイクリングチーム、スイス)が単独で鋭く飛び出すと、これに呼応した有力選手たちが下りと平坦・アップダウン区間で次々と合流。瞬く間に17名という巨大な逃げグループが形成された。

この逃げには、ジュリアン・ベルナール(リドル・トレック、フランス)、ラルス・クラップス(ロット・アンテルマルシェ、ベルギー)、ハネス・ウィルクス(チューダープロサイクリングチーム、ドイツ)、コルビー・シモンズ(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ)、バティスト・ヴァディク(チーム トタルエネルジー、フランス)、ルイ・ルーラン(コフィディス、フランス)らワールドチーム・プロチーム勢に加え、国内勢からも全日本王者の留目夕陽と織田聖(ともに愛三工業レーシングチーム)、ニコロ・ガリッボとトンマーゾ・ダーティ(ともにTEAM UKYO、イタリア)、山本元喜(キナンレーシングチーム)、新藤大翔(日本ナショナルチーム)らが加わった。
主要チームの多くが前方に駒を送り込んだことで、メイン集団は容認の構えを見せる。2周目の登坂で新藤とアレッサンドロ・イアッキ(ソリューションテック・NIPPO・ラーリ、イタリア)の2名が脱落して先頭は15名となったものの、タイム差は3周目には1分30秒、4周目には早くも2分30秒へと拡大した。

3周目に設定された最初の山岳賞は、ベテランの山本元喜(キナンレーシングチーム)が熟練のタイミングで先頭通過して獲得。集団はチーム ジェイコ・アルウラーやバーレーン・ヴィクトリアスなどがコントロールを開始するが、逃げ集団には強力な牽引役が揃っており、容易に差は縮まらない。
留目夕陽が第2山岳賞を獲得 古賀志林道で火を吹くメイン集団

中盤に入っても逃げ集団とメイン集団のタイム差は2分から2分30秒の間で推移した。先頭グループでは全日本チャンピオンジャージを纏う留目夕陽が軽快なペダリングを披露する。
迎えた6周目、2回目の山岳賞争いでは、古賀志林道の九十九折を力強く駆け上がった留目が真っ先に山頂ラインを通過。詰めかけた日本のファンから割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。

しかし、レースが後半戦へと折り返した7周目(残り8周)、先頭グループのペースがわずかに落ちてタイム差が2分5秒となると、メイン集団が不気味に動き出す。8周目の古賀志林道に入ると、メイン集団が一気にペースアップを敢行。頂上を通過する頃にはタイム差が1分にまで急縮小した。
決定的な動きが起きたのは9周目だった。メイン集団からニコラ・ブルイヤール(チーム トタルエネルジー、フランス)が猛烈なアタックを放ち、集団は完全に粉砕。これにジョルダン・ジェガット(チーム トタルエネルジー、フランス)、ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)、イェノ・ベルクムース(ロット・アンテルマルシェ、ベルギー)、アントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)、そして全米王者ジャージを着るクイン・シモンズ(リドル・トレック、アメリカ)ら、今大会の優勝候補たちが一斉に雪崩れ込んだ。

先頭では3回目の山岳賞をウィルクスが獲った直後、山本元喜とアダム・ラファーティー(チーム ジェイコ・アルウラー、アイルランド)が脱落して13名に。そこへアップダウン区間でシモンズやヒーリーら追走の精鋭7名が合流し、先頭グループは20名へと膨れ上がった。メイン集団はバラバラに瓦解し、もはや組織的な追走は不可能なサバイバルレースの様相を呈した。
11周目の大波乱 精鋭8名への絞り込み
10周目、先頭20名は登坂でさらに選別され15名へ。しかし後続集団も必死の粘りを見せ、11周目の平坦区間で追走が追いつき、先頭集団は一時的に25名まで膨らんだ。マイケル・マシューズ(チーム ジェイコ・アルウラー、オーストラリア)やサム・オーメン(リドル・トレック、オランダ)らもこの集団に復帰する。
だが、休む間もなく突入した11回目の古賀志林道で、決定的な地殻変動が起こる。

急勾配区間でベン・ヒーリーが強烈なペースアップを仕掛けると、集団は一瞬にしてバラバラに引き千切られた。この猛烈な登坂に食らいついたのは、クイン・シモンズ、イェノ・ベルクムース、そしてTEAM UKYOのニコロ・ガリッボのわずか3名。
頂上をヒーリー、シモンズ、ベルクムース、ガリッボの4名がクリア。5秒遅れでティベーリ、ジェガット、トマ・ボネ(チーム トタルエネルジー)、ベルナールが追う。13秒差でブルイヤールやサム・メゾノブ(コフィディス、フランス)、さらに18秒差でマシューズや留目夕陽らの第3グループが続く。
テクニカルな下り区間を経て、先頭4名に後続のティベーリら4名が追いつき、先頭は8名(ヒーリー、シモンズ、ベルクムース、ガリッボ、ティベーリ、ジェガット、ボネ、ベルナール)に再編された。
シモンズとヒーリーが炸裂させた決定打 最終周の一騎打ちへ

残り3周、12周目の古賀志林道。先頭8名の中で、ひときわ分厚い体躯を揺らしながらアタックを繰り出したのは、全米王者ジャージを着るクイン・シモンズだった。
爆発的なアタックでライバルたちを引き離し、第4回山岳賞を先頭通過。この獰猛な仕掛けに反応できたのは、変幻自在のアタックで知られるアイルランドのクラシックハンター、ベン・ヒーリーただ一人だった。

2人は完璧に協調し、高速で下りをクリア。後方ではガリッボ、ティベーリ、ベルクムース、ジェガット、ベルナールの5名が追走グループを形成するが、シモンズとヒーリーの圧倒的なスピードには敵わない。
13周目、追走グループには後方からブルイヤールとメゾノブが追いついて7名となるが、協調体制が整わずタイム差は広がる一方。14周目(ファイナルラップ)に入る時点で、先頭2人と追走7名とのタイム差は1分50秒にまで決定的に開いた。勝利の行方は、シモンズとヒーリーの2名に完全に絞られた。
最終周の古賀志林道。登坂力で勝るヒーリーは、スプリント力のあるシモンズをなんとか登りで突き放そうと再三にわたって揺さぶりをかける。しかし、昨年と今年の2年連続でツール・ド・フランスでスーパーアシスト賞(スーパー・エキピエ)に輝き、山岳でも強靭な粘りを見せてきたシモンズは離れない。
「フィニッシュまでにどうしても彼を振り落としたかったが、今日のクインはあまりに強靭だった」と後にヒーリーが語った通り、登りでも、続く高速のテクニカルダウンヒルでも2人は離れず、戦いは森林公園のストレートへと持ち込まれた。
“キャプテン・アメリカ”が咆哮 力でねじ伏せたスプリント勝利
フィニッシュ手前1km。牽制し合う2人。前に出たのは登りで勝負を決められなかったヒーリー、その後ろにシモンズがぴたりと張り付く。
残り200mの看板を過ぎ、満を持してシモンズが右サイドからスプリントを開始。鍛え上げられたスプリンター顔負けのパワーでペダルを踏み込むと、ヒーリーをグングンと引き離していく。

最後はスタンディングガッツポーズとともにフィニッシュラインを駆け抜けた。2位のヒーリーとは同タイムながら完勝。1分12秒遅れの追走集団による3位争いスプリントはイェノ・ベルクムースが制し、表彰台の最後の一角を射止めた。

そして、世界のトッププロが集う追走グループの中で見事な走りを見せたのがTEAM UKYOのニコロ・ガリッボ。ワールドチーム勢に混ざって5位に食い込み、日本登録のコンチネンタルチームとして特筆すべき存在感を示した。
日本人最上位争いは、序盤の逃げから粘り続け、終盤のサバイバルを耐え抜いた全日本王者・留目夕陽(愛三工業レーシングチーム)が3分22秒差の21位でフィニッシュ。アジア勢最上位として「アジア最優秀選手賞」を獲得した。U23最優秀選手賞には22位に入ったバーリント・フェルドホッフェル(バーレーン・ヴィクトリアス、ハンガリー)が輝いている。
選手コメント
優勝:クイン・シモンズ(リドル・トレック、アメリカ)

「本当に素晴らしいレースだったし、日本への遠征全体が信じられないほど最高な時間だった。今シーズンを勝利で締めくくることができて最高に嬉しいよ。
今日のチームのプランは、最初から超アグレッシブに攻めることだった。どんな動きも絶対に逃さない、常に前でレースを動かすというのが僕たちの戦略だったんだ。今回は4人という少数編成だったけれど、チームメイト(ベルナール、オーメン、ソブレーロ)が完璧に全ての動きをカバーしてくれた。最後は自分がその仕事を結果につなげるだけだったし、チームとして素晴らしい走りができたと思う。
ベン(ヒーリー)とは今年、数多くのレースで同じ集団になって戦ってきた。昨年のツール・ド・フランスの第6ステージで彼に負けた悔しさは今でも覚えているよ(笑)。だからこそ、2人になったときは絶対に負けたくなかった。登りで彼がアタックしてくるのは分かっていたから、とにかく千切られないことだけに集中した。スプリント勝負になれば勝てる確信があったからね」
2位:ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド)

「ものすごくタフで、最高に楽しいレースだった。シーズン最後のレースだからこそ、強い走りを見せて力強く締めくくりたかったし、今日の走りはそれができたと思う。
クインは本当に手強いライバルだ。スプリントになれば彼に分があるのは分かっていたから、古賀志林道の登りや下りでなんとか彼を引き離そうと全力を尽くした。でも、彼は信じられないほど強くて隙がなかったね。最後の一騎打ちは力負けだよ。悔しさはあるけれど、すべてを出し切った結果だから後悔はない。素晴らしいレースだった」
アジア最優秀選手賞・日本人最上位(21位):留目夕陽(愛三工業レーシングチーム)

「2周目にできた逃げに乗れたのは、正直ラッキーというか、予想外の展開でもありました。集団の前方が10人、15人と大きくなっていって、主要チームがほとんど乗っているのが見えたので『これは乗らないと危ない』と直感して前に入りました。まさかあんなに大きな逃げが決まるとは思っていませんでしたが、いい判断だったと思います。
逃げの中には織田(聖)さんも一緒に入ってくれて心強かったですし、2回目の山岳賞(6周目)を獲れたことも良かったです。何より、全日本チャンピオンジャージを着て国内最高峰のプロシリーズを走る以上、その名に恥じないアグレッシブな走りをしようと決めていました。アジア選手権やツール・ド・ランカウイから調子がずっと良くて、その好調さを維持して走れました。
ただ、終盤にシモンズやヒーリーたちワールドツアーのトップ選手たちが追いついてきて、彼らがアタックしたときの“絶対値”の差は歴然としていました。力でねじ伏せられるようなスピード差があって、そこに対応しきれなかったのは本当に悔しいです。トップ10も見えていただけに悔しさは残りますが、今の自分の全力を出し切った結果でもあります。この経験を必ず来年以降につなげたいです」
リザルト
宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース2026(144.2km)

1位 クイン・シモンズ(リドル・トレック、アメリカ) 3:33’02″(平均速度40.6km/h)
2位 ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト、アイルランド) +00″
3位 イェノ・ベルクムース(ロット・アンテルマルシェ、ベルギー) +1’12”
4位 ジョルダン・ジェガット(チーム トタルエネルジー、フランス) +1’12”
5位 ニコロ・ガリッボ(TEAM UKYO、イタリア) +1’12”
6位 ジュリアン・ベルナール(リドル・トレック、フランス) +1’12”
7位 サム・メゾノブ(コフィディス、フランス) +1’15”
8位 フェデリコ・イアコモーニ(TEAM UKYO、イタリア) +1’57”
9位 バティスト・ヴァディク(チーム トタルエネルジー、フランス) +1’57”
10位 アレクサンドル・ドゥレットル(チーム トタルエネルジー、フランス) +1’57”
11位 サム・オーメン(リドル・トレック、オランダ) +2’00”
12位 ルイ・ルーラン(コフィディス、フランス) +2’03”
13位 ベンジャミ・プラデス(VC FUKUOKA、スペイン) +2’03”
14位 ラルス・クラップス(ロット・アンテルマルシェ、ベルギー) +2’03”
15位 フローリアン・ストーク(チューダープロサイクリングチーム、ドイツ) +2’03”
16位 ショーン・クイン(EFエデュケーション・イージーポスト、アメリカ) +2’06”
17位 ハネス・ウィルクス(チューダープロサイクリングチーム、ドイツ) +2’26”
18位 ニコラ・ブルイヤール(チーム トタルエネルジー、フランス) +2’32”
19位 マイケル・マシューズ(チーム ジェイコ・アルウラー、オーストラリア) +2’48”
20位 アントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア) +3’07”
21位 留目夕陽(愛三工業レーシングチーム、日本) +3’22″(アジア最優秀選手賞)
22位 バーリント・フェルドホッフェル(バーレーン・ヴィクトリアス、ハンガリー) +5’53″(U23最優秀選手賞)
主な日本人選手リザルト
21位 留目夕陽(愛三工業レーシングチーム) +3’22”
26位 谷順成(Astemo宇都宮ブリッツェン) +7’38”
27位 島崎将男(日本ナショナルチーム) +7’41”
32位 岡篤志(Astemo宇都宮ブリッツェン) +8’09”
33位 寺田吉騎(TEAM UKYO) +8’09”
35位 孫崎大樹(ヴィクトワール広島) +8’09”
37位 橋川丈(キナンレーシングチーム) +8’09”
40位 山本大喜(VC FUKUOKA) +8’09”
43位 沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン) +8’09”
44位 織田聖(愛三工業レーシングチーム) +8’16”
46位 林原聖真(シマノレーシング) +8’49”
48位 岡本隼(愛三工業レーシングチーム) +13’21”
特別賞
山岳賞
第1回(3周目):山本元喜(キナンレーシングチーム)
第2回(6周目):留目夕陽(愛三工業レーシングチーム)
第3回(9周目):ハネス・ウィルクス(チューダープロサイクリングチーム)
第4回(12周目):クイン・シモンズ(リドル・トレック)
アジア最優秀選手賞
留目夕陽(愛三工業レーシングチーム)
U23最優秀選手賞
バーリント・フェルドホッフェル(バーレーン・ヴィクトリアス)
SHARE
PROFILE
せいちゃん
稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている
稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている



















