BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • VINAVIS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • Kyoto in Tokyo
  • タビノリ

STORE

  • FUNQTEN ファンクテン

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ

ヒトとクマが生きる世界。日本とカナダで異なるクマへの常識    

クマと出会ってしまったら、あなたは正しく行動できるだろうか。 そもそも、クマと遭遇しないためにはなにが必要なのか。

日本では近年、登山者とクマとの遭遇事故が後を絶たない。クマを見つけたときの対処だけでなく、「出会わないため」の考え方がこれまで以上に求められている。

約40万頭ものクマが生息する「クマ大国」カナダでは、ヒトとクマが共存するためのルールや教育が社会全体に浸透し、山岳地帯では徹底した野生動物対策が行なわれている。

カナダ在住の山のガイドが、現地で実践しているクマとの付き合い方を紹介し、日本の山に生かせるヒントを探る。

編集◉PEAKS
文・写真◉安食昌義

クマの脅威は日本もカナダも同じ

3,000m級の山々が連なり、氷河で削られた谷には美しい湖と深い森が広がるカナディアンロッキー。そこには数多くの野生動物が生息し、なかにはヒトへの脅威となる動物も少なくありません。その最たるものが、日本同様にクマです。

アメリカンブラックベア

カナディアンロッキーに生息するクマは2種類います。 ひとつ目はブラックベアです。体長は140〜180cmほどで、体重は約150kg。雑食性で木に登ることが得意なその習性は、日本のツキノワグマに近いとされています。

グリズリーベア

ふたつ目は、日本にも生息するヒグマの亜種であるグリズリーベアです。 こちらも雑食で、体長は2m近く、体重は300kgを超える個体もあり、ブラックベアより明らかに一回り大型です。首の後ろから肩にかけての大きなコブが特徴です。

危険を感じた場合、ブラックベアは木に逃れることが比較的多い一方、グリズリーは相手に立ち向かって排除しようとする習性が強いとされています。ただし、ブラックベアの事故も発生しており、実際の反応は個体や状況によって異なります。種類だけで行動を予測することはできません。

いざクマに出会ってしまったときの対処法

山に入っていると、どんなに注意をしていてもクマに遭遇することは起こりえます。ガイドである私自身も、カナディアンロッキーで何度もクマと遭遇してきました。

そんなときに明暗を分けるのは、やはり出会ってしまった際の対処をしっかり行なえるかどうかです。幸いなことに、私はこれまで一度も事故にいたることなく対処できています。

もっとも重要なのは、「状況に応じて対処は変わってくる」ということを肝に銘じておくことです。これは日本でもカナダでも変わりません。

クマがこちらに気づいていない場合

まずは自分自身が落ち着くことです。突然クマを発見すると驚いてしまいますが、冷静になることがなによりも重要です。クマがこちらに気づいていなければ、決して近づかず、静かにその場を離れましょう。往路であれば登山を中止して引き返すのも立派な判断です。どうしてもその場所を通過しなければいけないのであれば、一度大きく距離をとったうえで時間をおき、クマがいなくなったことを確認してから通過するようにします。

クマがこちらに気づいている場合

走って逃げることは、絶対にやってはいけません。 落ち着いた行動こそが、クマを刺激せず安心させます。叫び声を出したり急に動いたりすると、クマの攻撃の引き金となってしまう可能性があります。 クマから目を離さず、ゆっくりあとずさりして距離を取っていきましょう。クマがこちらを気にかけていなければ、少しずつ距離を取ってその場を立ち去るか、クマがいなくなるのをじっと待ちます。

クマがこちらに近づいてくる場合

もしクマが私たちに興味をもって近づいてきた場合、あとずさりをして距離を保ちながらクマに語りかけます。カナダでは「Hey Bear」と落ち着いた声で話しかけます。私たちが人間であり、彼らの獲物ではないことを理解させるためです。このとき、グループであれば絶対にバラバラにならず、身を寄せ合ってひとつの大きな塊となり、自分たちを大きく見せることがクマを近寄らせにくくする有効な手段です。

最終手段:クマ撃退スプレー

それでもクマがアプローチをやめない場合、最終手段はクマ撃退スプレーを使うしかありません。現在考えられる限り、事故を避けるもっとも優れた道具です。カナダで山に入る人は、全員が携帯しているといっても過言ではありません。

スプレーの主成分はトウガラシ由来の辛味成分です。クマの目、鼻、口をめがけて噴射します。最大噴射距離は約9〜10mですが、風向き次第ではさらに短くなります。クマとの距離が5〜8m程度まで迫ったらスプレーを使うと考えたほうがいいでしょう。

そして重要なのは、一回で使い切らないことです。レバーを押し続けると、スプレーはわずか5〜7秒ほどで空になってしまいます。クマに当たらず、出し切ってしまっては意味がありません。 一度に1〜2秒ほど「プシュッ」と噴射し、トウガラシ成分が顔にかかればクマは嫌がって逃げていきます。一発で届かなかったときのことも考慮し、焦らず何度か噴射できるように残しておくこと。そのためにも、落ち着いて行動することが大切なのです。

スプレーを使い切ってしまった、もしくは所持していない状態でクマが襲ってきた場合には、もう戦うしかありません。大声を出し、木の枝や石で叩くなどして威嚇しましょう。自分が簡単に倒せる獲物ではないことをクマにわからせるために、あらゆる手段を使って激しく反撃してください。

ちなみにクマ撃退スプレーを使う際は、風向きが変わったり、誤射してしまったりして、体にかかった場合に備えて水もつねに携行することをおすすめします。私は訓練で噴射した際に風向きが急に変わり、クマ撃退スプレーが顔にかかってしまったことがあります。そのとき、皮膚は焼けるようにヒリヒリし、目は激しい痛みでまったく開けられず、悲惨な状態でした。それでもボトルの水で洗うだけで痛みは緩和し、その後シャワーを浴びて数時間で痛みはなくなりました。クマ撃退スプレーは、一時的に強い刺激症状を引き起こしますが、基本的に永続的な有害性はありませんので、もしかかってしまった場合は落ち着いて水で洗い流しましょう。

そもそもクマに出会わないために

実際にクマと遭遇した際、パニックのなかで最適な対処法を取るのは容易ではありません。だからこそ、ガイドとしても「そもそもクマとの遭遇を避ける行動」をなにより徹底しています。

人の声で存在を知らせる 熊鈴は効果なし?

山に入ったら、音を出して自分たちの存在をクマに知らせることが大切です。クマは非常に警戒心が強く、本来はヒトとの接触を嫌って避ける習性があるので、事前に気づけばあちらから立ち去ってくれます。

では、どうやって知らせるか。日本ではクマ鈴がよく使われていますね。しかしじつは、カナダでクマ鈴を使っている人はだれもいません。 北米では、クマ鈴はクマに対する警告として効果が非常に薄いという研究結果が出ているからです。

ではなにが有効なのか。それは「人の声」です。 定期的に大きな声を出したり、グループで会話したりしながら歩くことがもっとも有効であると、カナダ国立公園局も推奨しています。私自身も、周囲に人の気配がない場所や、森のなかで見通しが悪い区間に入るときは、意識して大きな声を出し、自分の存在をアピールしています。

楽しくおしゃべりができるくらいのペースで歩くことは、クマ対策という観点でも非常に重要です。疲れて無口になって歩くのはよくありません。また、手を叩いて「パン!」とノイズを作ることも有効だとされています。

テントでの食事は厳禁「Safety Triangle」

学生のころから日本で登山をしていた私が、カナダの山に来てもっとも驚いたのが「テント内では一切食事を取らない」ということでした。食べ物の匂いがテントに付着し、動物を引き寄せてしまうからです。食事はもちろん、食料や虫除けスプレー、日焼け止めなど、匂いのあるものは一切テント内に持ち込みません。

実際、テントでサラミを食べて食料を別の場所に保管しましたが、匂いが残っていたのか、テントを不在にしたちょっとの隙にリスにファスナーを噛みちぎられ、テントに侵入されてしまったことがあります。このときは自分の不注意さを思い知らされました。

※画像はAIにより生成しています。

調理や食事はテントから少なくとも50m離れた場所(できれば風下)で行ないます。そして食料などの匂いのある物は、テントや調理場から最低50m離れた場所に保管します。この配置によってリスクを最小限に抑える方法は「Safety Triangle(セーフティ・トライアングル)」と呼ばれ、バックカントリーでの鉄則となっています。

では、実際にどうやってテントの外に食料を保管するのか。 整備されたキャンプ場であれば「Bear Locker(ベアロッカー)」と呼ばれる金属製の保管箱があり、そこにすべての匂いが出る物を収納します。

しかし、広大なカナダの山では、整備されていない手つかずの場所でテントを張ることも多くあります。 その際に必須となるのが、自分でロープを持参して食料を木に吊るす「Bear Hang(ベアハング)」です。木登りが得意なブラックベア対策として、地面から4〜5mの高さ、かつ木の幹から2m離れた位置になるよう上手く吊るさなければなりません。適切な木を見つけ、絶妙な位置に食料を吊るすのはなかなか難しいため、事前に練習をしておいたほうがいいでしょう。

また、ときには吊るすための木がないような場所でテントを張ることもあります。その際には「Bear Canister(ベアキャニスター)」と呼ばれる専用容器を持参します。これはクマが開けたり噛み切ったりできない頑丈なロック式容器です。この中に食料などをすべて入れ、テントから最低50m離れた場所に置いて保管するのです。エリアによっては、この容器の携帯が義務付けられているところもあります。

徹底したルールでヒトとクマの衝突を避ける

個人の対策だけでなく、社会全体としてヒトとクマの不幸な遭遇を避けるための厳格なルールがあることもカナダの特徴です。

クマの活動が活発なときはトレイル閉鎖

カナダでは、クマの活動が活発な場合、国立公園や州立公園を管理する公園局によってトレイルやキャンプ場が即座に完全閉鎖されます。母グマが子グマを連れて頻繁に出没していたり、遭遇事故のリスクが高まったりした場合に実施されます。

4人以上のグループで事故を防げる?

クマの活動が活発なエリアや、クマの大好物であるバッファローベリーが実る時期には、「4人以上のグループでなければ入山してはならない」という絶対条件がつくことがあります。その際、歩行者同士の距離も3mを超えてはならないとされ、つねに固まって行動することが求められます。グループで来てもバラバラに歩いていては意味がないからです。バンフ国立公園にあるミネワンカ湖のトレイルなどは、毎年7〜9月の約2カ月間にわたってこの厳しいグループ制限が課せられます。

北米では、4人以上のグループがクマと重大な事故に陥ったケースは極めて稀です。クマの襲撃と安全対策に関する第一人者のカルガリー大学名誉教授Stephen Herrero氏らによる、過去のクマ襲撃事故の検証によると、負傷者の9割以上が「3人以下」で行動していました。またブラックベアに限った研究では、死亡事故の9割が「単独または2人」だったと報告されています。4人以上で固まって歩くことは、効果的なクマ対策のひとつなのです。

ルールを破ると罰金

上記のようなルールは法律によって厳格に定められており、違反した場合は最大で25,000カナダドル(日本円で約280万円・2026年8月時点)という高額な罰金が科されることがあります。さらに悪質な場合には、パークレンジャーによって公園への立ち入り禁止が命じられるほどです。 ヒトが持続的に自然を利用していくために、極めて厳格なルールのもとで運用されているのです。

人々の意識を高めるために

山を訪れる人の野生動物に対する意識を高めるためには、山のなかだけで気をつけていればいいというものではありません。麓の街でも野生動物対策が徹底されており、生活のなかで「動物とどう接するべきか」をつねに考えさせる環境が整っています。

こちらは、私が暮らすキャンモアという街にあるゴミ箱です。やはり動物がアクセスできないよう重厚な金属製で作られており、クマが開けられないよう特殊な構造になっています。こうした日常のインフラからも、対策の徹底を知ることができるのです。

クマは一度でもヒトの食べ物やゴミに手を出すと、「ヒト=簡単に食料が手に入る存在」と学習してしまいます。人の食べ物の味を覚えてしまったクマは、本来持っている警戒心を失い、予測不能で攻撃的な行動を取るようになってしまいます。

残念ながら、一度ヒトと食べ物を結びつけてしまったクマの行動を変えることはほぼ不可能です。そしてそのクマは、ヒトの行為の代償として殺処分され、命を落とすことになります。しかし、食べ物などクマを引き寄せるものを正しく管理しさえすれば、不幸な事故の大半は防ぐことができるのです。

カナダの徹底した対策は「人間を守るため」であると同時に、「クマを守るため」でもあります。今回ご紹介した知識やカナダの取り組みが、クマとの付き合い方を模索する日本の山々や登山者にとって、安全に山を楽しむための少しでもいいヒントになればうれしく思います。

SHARE

PROFILE

安食昌義

PEAKS / カナダ山岳ガイド協会 ハイキングガイド

安食昌義

カナダ山岳ガイド協会(ACMG)ハイキングガイド/ヴィア・フェラータガイド。元NHKディレクター。カナダの原生自然に魅せられ、一念発起してカナダに移住。ガイド業に勤しみながら、カナダの山々の魅力を発信。 ACMGスキーガイドの資格取得に挑戦中。
https://coloured-peaks.com/

安食昌義の記事一覧

カナダ山岳ガイド協会(ACMG)ハイキングガイド/ヴィア・フェラータガイド。元NHKディレクター。カナダの原生自然に魅せられ、一念発起してカナダに移住。ガイド業に勤しみながら、カナダの山々の魅力を発信。 ACMGスキーガイドの資格取得に挑戦中。
https://coloured-peaks.com/

安食昌義の記事一覧

RECOMMEND ITEM

[ 公式オンラインショップおすすめアイテム ]

No more pages to load