
イタリア・オルコ渓谷の旅の思い出。ロカーナ滞在中のエマニエーレとのクライミング|筆とまなざし#480
成瀬洋平
- 2026年11月06日
クライミングにハマっているエマニエーレにカムの使い方を教える
今年のロカーナ滞在ではうれしいことがたくさんあったが、そのひとつがエマニエーレとクライミングをしたことだった。
エマニエーレは、ロカーナで仲良くなったグラチアーノの息子である。現在20歳の大学生だ。10年ほどバレーボールをしていたが、昨年からバレーを引退してクライミングを始めた。グラチアーノ似の尖った鼻とお母さんであるナディアの優しい眼差しがミックスされた、男前の青年である。
「トラッドクライミングをしたいけれど、カムを使ったことがないんだ」
それはお安い御用だと、エマニエーレを連れてチェレゾーレにあるダドの岩場へ行った。ここには何本か易しいクラックがあって、カムの練習にももってこい。イタリアでプチ講習である。
カムの使い方を説明してからトップロープでカムをセットしながら登る。カムセットもなかなかうまく、もう少し練習すればリードでも登れそうだ。元々運動神経の良いエマニエーレはクライミング歴わずか一年ほどだが上手に登る。週2回ほどジムで登り、週末は岩場へ出かけているらしい。まさにクライミングにハマっているといったようすだった。
「グラチアーノのギアも使っているんだよ」
そう言って、少し古いタイプのクイックドローを見せてくれた。父親のクライミングギアを使って登る息子がとても微笑ましく思えた。
「Greenspit」がきっかけで繋がった交流
翌週はエマニエーレの好きなスラブの岩場へ遊びに行った。アプローチが少しわかりにくいこともあり、エマニエーレに誘われなければ来ないような場所だった。トポには数本のルートしか載っていないのだが、ほかにもたくさんルートがあって、しかも易しいグレードながらどのルートもおもしろい。35m、6aのスラブルートはすばらしいのひと言だった。途中でグラチアーノとナディアもやってきて、岩場は和やかな雰囲気だった。そしてその夜はグラチアーノの家にお呼ばれして、ナディア特製のニョッキなど美味しいディナーをご馳走になった。
いまは立派なお腹をしたグラチアーノだが、若いころはスリムでクライミングもしていた。
「これが一番最初に買ったクライミングシューズなんだよ」
そう言って、スポルティバの「メガ」を見せてくれた。きっと、彼の山の師匠であるペルッカとの思い出が詰まったシューズなのだろう。
「Greenspit」がきっかけで訪れたロカーナ。エイドで「Greenspit」を初登したぺルッカがきっかけで仲良くなったグラチアーノ。そしてその息子といっしょにクライミングに出かけるようになった。なんてうれしいことだろう!
「ロカーナでは、クライミング、登山、スキー、ぼくがやりたいことがなんでもできる。それに季節によって変化するこのすばらしい景色。ここはまさにパラダイスだよ!」
生まれ故郷にこんなにも愛着を持つ青年が羨ましいと思った。そしてそこには大切な家族もいる。
エマニエーレはすぐに強いクライマーになるだろう。来年の再会が楽しみだし、負けないようにぼくもがんばろうと思う。
ワインを飲みながらグラチアーノが言った。
「来年までに痩せて、次回はいっしょに登りに行くよ」
その言葉を聞いて、ぼくはエマニエーレと顔を見合わせた。
「グラチアーノ、そのセリフは去年も聞いたよ!」
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

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